| 国 | サウジアラビア王国 |
|---|---|
| 登録区分 | 文化遺産 |
| 世界遺産登録年 | 2021年 |
| 登録基準 | (ⅲ) |
| その他の区分 | |
| 公式テキストページ | 中巻174p |
| 英文タイトル | Ḥimā Cultural Area |
※テキストは世界遺産1500(2024年発行の最新版)になります。参照はこちら
ヒマーの文化地域とは
アラビア半島の歴史を伝える「岩の図書館」
ヒマーの文化地域は、サウジアラビア南西部、ナジュラーン州に位置する広大な考古学的景観であり、先史時代から続く人類の営みと信仰の痕跡を今に伝える重要な文化遺産です。この地域は、古代の交易路である「アラビアの香料の道」に連なる交通の要衝にあたり、数千年にわたって人々の往来と文化の交流が絶えず行われてきました。ヒマーは、岩山や谷、乾燥地帯が広がる自然環境の中に、古代人が残した数多くの岩絵や碑文を含んでおり、アラビア半島の文化的多様性と精神世界を読み解く上で極めて重要な資料となっています。
この地域で最も注目されるのが、約7000年にわたる人類の痕跡を記録した豊富な岩絵と碑文群です。これらの岩絵には、狩猟や戦闘の場面、家畜や野生動物、宗教儀礼や舞踊、さらには日常生活の様子までもが詳細に描かれており、当時の人々の価値観や生業、信仰について多くの情報を提供しています。岩絵に添えられる碑文は、タムディック文字や南アラビア文字、古アラビア語、アラム語など多様な言語で刻まれており、この地域が文化と文明の交差点であったことを示しています。
また、ヒマーには古代の井戸や水源、宿営地の遺構も多く確認されており、これはこの地が旅人や隊商にとって生命線であったことを物語っています。特に、乾燥した砂漠地帯において継続的に利用されてきた井戸群は、地域社会の持続可能な水管理の知恵を今に伝える貴重な存在です。井戸の近くには、時に祈りの場とみられる小規模な石組みの構造物や記念碑的な岩も見つかっており、古代人が自然と神聖性を結びつけていた様子をうかがい知ることができます。
さらに、ヒマーの岩絵には、ラクダの飼育や騎乗といったアラブ文化に特有の要素も数多く描かれており、現在のアラブ社会の源流に位置づけられる生活文化が形成されていった過程を視覚的に追うことができます。これらの図像資料は、アラビア半島内外の文化的交流や技術の伝播、社会構造の変遷など、歴史研究のさまざまな分野において貴重な情報を提供します。
ユネスコの世界遺産に登録されたヒマーの文化地域は、その豊かな視覚資料と多言語の碑文を通して、古代アラビアにおける人類の創造性と交流の証を今に伝える生きた遺産です。サウジアラビアにおける文化遺産保護と教育の拠点としても位置づけられ、学術的価値と観光的魅力の両面から高く評価されています。今後もその保存と研究が進められることにより、古代の声がより深く私たちに語りかけてくれることでしょう。

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