佐渡島の金山

佐渡島の金山
伊藤善行, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons
目次

世界遺産登録が拓く未来

はじめに:世界に認められた「佐渡島の金山」

新潟県佐渡島に位置する「佐渡島の金山」は、2024年7月29日にインドのニューデリーで開催された第46回世界遺産委員会において、ついにユネスコの世界文化遺産に登録されました 。

この登録は、日本にとって26件目の世界遺産となり、その歴史的・文化的価値が国際的に認められた画期的な出来事です 。  

佐渡島の金山は、単なる鉱山遺跡ではありません。

そこには、厳しい自然環境の中で、人々が長年にわたり培ってきた独自の技術と生活の知恵、そして自然との共生の歴史が深く刻み込まれています。

この壮大な遺産がどのようにして世界遺産としての地位を確立し、今後どのような未来を描いていくのか、その全貌に迫ります。

登録までの道のり:粘り強い推薦活動

佐渡島の金山が世界遺産に登録されるまでの道のりは、決して平坦ではありませんでした。

その歴史は、2007年に文化遺産候補地の公募が行われたことに始まります 。

そして2010年には、ユネスコの世界遺産暫定リストに掲載され、正式推薦に向けた準備が本格化しました 。  

しかし、国内での推薦候補選定は難航を極めました。

文化庁の文化審議会世界文化遺産特別委員会では、2015年から2021年までの間、複数回にわたって推薦候補が見送られるという厳しい状況が続きました 。

これは、世界遺産登録が単なる国内の評価に留まらず、国際的な比較研究に基づいた「顕著な普遍的価値(OUV)」の厳格な証明が求められる、非常に競争の激しいプロセスであることを示しています。

こうした粘り強い推薦活動と、関係者のたゆまぬ努力が実を結び、2021年末にようやく2023年開催予定の世界遺産委員会の審査候補に選定され、2022年2月にはユネスコへの推薦が決定しました 。

そして、2024年7月の第46回世界遺産委員会で、ついに世界遺産への登録が決定したのです 。

この長い道のりは、佐渡島の金山が持つ価値への確固たる信念と、それを世界に伝えようとする情熱の証と言えるでしょう。

なぜ「顕著な普遍的価値」が認められたのか:手工業技術と「文化的景観」

佐渡島の金山が世界遺産として認められた最大の理由は、その「顕著な普遍的価値(Outstanding Universal Value: OUV)」にあります。

世界遺産委員会は、佐渡島の金山を「世界の他の地域において採鉱等の機械化が進んだ時代に、高度な手工業による採鉱と製錬技術を継続したアジアにおける他に類を見ない事例である」と評価しました 。

これは、特に世界遺産登録基準の「(iv) 建築様式や建築技術、科学技術の発展の段階を示す遺産である」に合致するとされています 。  

具体的には、以下の点がその価値を裏付けています :

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・高度な手工業技術の継続: 17世紀には世界最大の金の生産地の一つでありながら、機械化が進む時代にあっても、手掘りによる採掘から選鉱、製錬、積み出しに至るまでの一連の鉱山操業システムが、高度な手工業技術によって継続されていました。これはアジアにおいて類を見ない特徴です。
・鉱山絵巻の存在: 鉱山内部の様子や技術の変遷、当時の人々の生活を詳細に活写した「鉱山絵巻」は、排水技術(水上輪など)の進化を伝える世界的にも一級の資料です。これらの絵巻は、技術だけでなく、生活文化の変遷や女性の活躍など、多角的な側面を明らかにする可能性を秘めています。
・総合的な鉱山システム: 採掘から精錬、金銀抽出までの一連の技術が絵巻に詳しく描かれており、鉱山全体が有機的に機能していたことが示されています。また、佐渡には日本最古級の和算書の一つが存在し、当時の技術水準の高さを示唆しています。
・「文化的景観」としての価値: 佐渡島の金山は、単なる産業遺跡としてだけでなく、「佐渡相川の鉱山及び鉱山町の文化的景観」として、人間と自然の相互作用によって形成された「文化的景観」としての側面も持ち合わせています 。特に、人々の生活や生業が自然と結びつき、時間をかけて形成されてきた「有機的に進化する景観」の中でも、「継続する景観」の典型例と位置づけられます 。これは、その土地の風土と人々の営みが一体となって生み出された、生きた遺産としての価値が評価されたことを意味します。

これらの要素が複合的に評価され、佐渡島の金山は、人類の歴史における卓越した技術と、自然との持続的な関わりを示す普遍的な価値を持つ遺産として、世界に認められるに至ったのです。

未来への継承と課題:持続可能な保全と地域活性化

世界遺産登録は、佐渡島の金山にとって新たなスタートラインです。今後、その価値を未来へと継承していくためには、様々な課題への対応が求められます。

ユネスコ諮問機関であるイコモスからは、長期的な調査戦略の構築や森林管理ガイドラインの策定などが勧告されており、日本は2025年12月1日までにその実施に関する報告書を提出する必要があります 。  

また、佐渡市は「佐渡金銀山の世界的価値を知り、守り、多くの人たちに伝え、未来へ継承していく責務を、佐渡市民だけでなく、新潟県民全体で担っていく」ことを目指しています 。

そのためには、以下の取り組みと課題解決が不可欠です :

・地域住民との協働: 法令による保全だけでは限界があり、地域住民をはじめとする多くの人々の理解と協力が不可欠です。遺跡や周辺環境・景観の保全の必要性を広く理解してもらうための情報発信や、「佐渡市世界遺産推進基金」を活用した民間団体の保全活動支援が求められます。
・適切な保存管理と整備: 遺跡の保存状況の経過観察、適切な保存方法の検討・実施体制の整備、そして大規模修繕などを円滑に行うための制度設計が必要です。また、鉄塔や電柱など、景観を阻害する要因についても関係者との協議を進める必要があります。
・観光客の適切な誘導とインフラ整備: 世界遺産登録による観光客の急増が予想される中で、適切な来訪者誘導のための案内板設置や、交通手段の便数増加、駐車場の確保が課題となります。特に、外国人観光客の増加に対応するため、多言語対応の案内サインやガイド、洋式トイレの整備、Wi-Fi環境の充実などが急務です。高齢者や足腰の弱い来訪者への配慮も重要です。
・地域活性化への貢献: 世界遺産登録を契機に、佐渡金銀山と各地域との「つながり」を発掘し、積極的に活用することで、佐渡だけでなく新潟県全体の魅力向上につなげていくことが期待されています。観光庁も「佐渡・新潟」を高付加価値旅行者の誘致対象地域として集中的に支援しており 、持続可能な観光の推進が重要となります。  

佐渡島の金山は、過去の遺産であると同時に、地域社会の持続可能な発展と、人類共通の課題解決に貢献する「生きた遺産」としての役割を担っています。

その価値を未来へと継承していくためには、地域住民、行政、観光関係者、そして訪れる人々が一体となって、保全と活用に取り組むことが求められるでしょう。

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この記事を書いた人

世界遺産ハントの管理人。

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