世界遺産という言葉に、あなたはどんなイメージを抱きますか?
悠久の歴史を刻む建造物、あるいは手つかずの壮大な自然。世界遺産は、まさに人類共通の宝であり、その価値を未来に伝えるための国際的な枠組みが「世界遺産委員会」です。
毎年夏に開催されるこの会議では、新たな遺産の登録、既存遺産の保護状況の審議、そして「危機遺産リスト」への登録や削除など、世界遺産に関する重要な決定が下されます。
2024年、第46回世界遺産委員会は、インドの首都ニューデリーを舞台に、2024年7月21日から31日にかけて開催されました。
この会議では、日本から推薦された「佐渡島の金山」を含む、24件もの新たな世界遺産が誕生し、総数は1,223件となりました。
この記事では、2024年の世界遺産委員会の主な結果や注目ポイント、そして日本の「佐渡島の金山」が世界遺産に登録された経緯について、分かりやすく解説していきます。
世界遺産がどのようにして選ばれ、守られていくのかを知ることで、その魅力はさらに深まることでしょう。
2024年世界遺産委員会の概要:開催地と会期
第46回世界遺産委員会は、インドのニューデリーで開催されました。
会期は2024年7月21日から31日までの約10日間です。
世界遺産委員会は、世界遺産条約を締結している締約国の代表者で構成され、毎年開催地を変えながら、世界遺産に関する最重要事項を審議・決定しています。
開催地がその年の議題や世界情勢を反映することもあり、注目が集まるポイントの一つです。
新規登録された世界遺産:未来への扉を開く24の新たな宝
2024年の世界遺産委員会では、文化遺産19件、自然遺産4件、複合遺産1件の計24件が新たに世界遺産リストに加わりました。
これは、地球上の多様な価値が改めて認識され、保護の対象となることを意味します。
注目すべき新規登録遺産をいくつかご紹介しましょう。
文化遺産
・佐渡島の金山(日本):日本の推薦案件として、長年の議論を経て待望の登録となりました。江戸時代から近代にかけての金銀山開発の歴史を物語る重要な産業遺産であり、その独特の文化的景観が高く評価されました。詳細は後述します。
・北京の中軸線:中国首都の理想的秩序を示す建築物群(中国):中国の首都である北京の都市計画と建築が、いかに理想的な秩序と伝統的な価値観に基づいて築かれたかを物語る遺産です。その壮大さと歴史的意義が評価されました。
・モイダムス:アーホーム王朝の墳墓埋葬システム(インド):インド北東部のアーホーム王朝の王族の墳墓群。独特の埋葬文化と歴史的価値が認められました。
・アッピア街道(街道の女王)(イタリア):古代ローマ時代に建設された重要な街道の一つ。その歴史的意義と土木技術の高さが評価されました。
・ティエベレ王宮(ブルキナファソ):西アフリカのブルキナファソにある、グリ・コミュニティの伝統的な建築様式を示す王宮。その独特の建築技術と文化が評価されました。
自然遺産
・レンソイス・マラニャンセス国立公園(ブラジル):ブラジル北東部に広がる広大な砂丘地帯と、雨季に形成される無数の淡水湖が織りなす独特の景観が評価されました。
・フロー・カントリー(イギリス):スコットランド北部に広がる、世界的に重要な泥炭地の景観。その独特の生態系と泥炭地の重要性が評価されました。
これらの新規登録は、世界遺産が単なる観光地ではなく、地球上に存在する多様な文化と自然の価値を再認識し、その保護を促す国際的な取り組みであることを改めて示しています。
日本の「佐渡島の金山」が世界遺産に!
2024年の世界遺産委員会で、日本にとって最も大きなニュースとなったのが、「佐渡島の金山」の文化遺産登録です。
新潟県佐渡市に位置するこの遺産は、江戸時代から近代にかけて、日本の経済を支えた重要な金銀山開発の歴史を伝える貴重な場所です。
登録までの道のり
「佐渡島の金山」は、これまでも世界遺産登録を目指し、何度か推薦の検討が行われてきました。
今回、日本政府は2022年に推薦書をユネスコに提出。
諮問機関であるICOMOS(国際記念物遺跡会議)からは、「情報照会」の勧告を受けていました。
情報照会とは、登録基準への適合性には一定の可能性があるものの、追加情報や改善が必要とされる場合に発せられる勧告です。
ICOMOSからは、特に以下の3つの追加情報が要請されていました。
1.完全性・真実性の条件を満たすため、江戸期より後の証拠が大部分を占める相川上町の北沢地区を資産範囲から除き、推薦資産の範囲を修正すること。
2.構成資産「相川鶴子金銀山」の緩衝地帯を沖合いに拡張させること。
3.鉱業権の所有者が、推薦資産または緩衝地帯の範囲内において商業採掘を再開しないという明確な約束を示すこと。
これらの勧告に対し、日本は委員会開催までに迅速かつ丁寧に対応し、必要な情報を提供し、計画を修正しました。
委員会では、日本がこれらの対応を実施済みであり、登録に必要なすべての条件が満たされていることから、議論を行うことなく登録が決定されました。
これは、日本の世界遺産登録に対する熱意と、国際的な基準への真摯な対応が評価された結果と言えるでしょう。
「佐渡島の金山」の価値
「佐渡島の金山」は、以下の文化遺産登録基準(クライテリア)(iv)「歴史上の重要な段階を例証する、ある形式の建造物、建築物群、技術の集合体、あるいは景観の優れた見本であること。」に適合すると評価されました。
この遺産は、江戸時代初期から明治以降にかけての、日本の高度な採掘・精錬技術の発展を示すだけでなく、その後の産業近代化にも大きく貢献した歴史的意義を持っています。
また、山中に形成された鉱山の集落や、関連する施設群が織りなす文化的景観も、その独自性において特筆すべき点です。
「佐渡島の金山」の登録は、日本の世界遺産数を増やすだけでなく、日本の多様な歴史と文化、そして技術力を世界に発信する上で大きな意味を持ちます。
危機遺産リストに関する議論:守るべき遺産の現状
世界遺産委員会では、新規登録だけでなく、既存の世界遺産の保護状況も重要な議題となります。
特に、武力紛争、自然災害、過剰な開発、観光客の増加などによって「顕著な普遍的価値」が脅かされていると判断された遺産は、「危機にさらされている世界遺産リスト(危機遺産リスト)」に登録されるかどうかが審議されます。
2024年の委員会でも、複数の危機遺産に関する議論が行われました。例えば、ウクライナの文化遺産が武力紛争によって危機に瀕している状況が報告され、その保護に関する国際的な協力が求められました。
一方で、過去に危機遺産リストに登録されたものの、その後の努力によって危機を脱し、リストから削除される遺産もありました。
例えば、ストーンヘンジ、エイヴベリーの巨石遺跡と関連遺跡群(イギリス)については、周辺の道路整備計画が遺産に与える影響が懸念され、危機遺産への登録が議論されましたが、最終的には登録は見送られ、継続的な保全状況報告が求められることになりました。
危機遺産に関する議論は、世界遺産が単なる「指定」にとどまらず、その価値を未来に伝えるための継続的な努力と、国際社会の連携がいかに重要であるかを浮き彫りにします。
2024年委員会のその他の注目点
・世界遺産総数の更新:24件の新規登録により、世界遺産の総数は1,223件(文化遺産952件、自然遺産230件、複合遺産41件)となりました。これは、世界遺産条約が発効してから50年以上が経過し、着実にその保護の輪が広がっていることを示しています。
・テーマの多様性:今回登録された遺産の中には、鉱山遺跡のような産業遺産から、伝統的な建築群、自然景観、そして戦争の記憶を伝える場所まで、非常に多様なテーマの遺産が含まれていました。これは、世界遺産が人類の多様な歴史と文化、そして自然のあり方を尊重し、その価値を認めるものであることを示しています。
まとめ:世界遺産委員会は「遺産の未来」を議論する場
2024年の第46回世界遺産委員会は、新たな遺産の誕生と、既存遺産の保護に関する活発な議論を通じて、世界遺産の未来を考える上で重要な会議となりました。
特に、日本の「佐渡島の金山」の登録は、私たち日本人にとって大きな喜びであり、世界遺産に対する関心をさらに高めるきっかけとなるでしょう。
世界遺産委員会は、単に「どこが世界遺産になったか」という結果だけでなく、その背後にある国際的な協力、専門家たちの努力、そして遺産を取り巻く様々な課題を私たちに教えてくれます。

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