サウジアラビアのハーイル地方にある壁画

サウジアラビアのハーイル地方にある壁画
遺産委員会, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons
サウジアラビア王国
登録区分文化遺産
世界遺産登録年2015年
登録基準(ⅰ)(ⅲ)
その他の区分
公式テキストページ中巻175p
英文タイトルRock Art in the Hail Region of Saudi Arabia

※テキストは世界遺産1500(2024年発行の最新版)になります。参照はこちら

サウジアラビアのハーイル地方にある壁画とは

砂漠に残る1万年前からの無数の岩絵

ハーイル地方の壁画は、サウジアラビア北西部の乾燥した山岳地帯に広がる岩面彫刻群であり、人類の芸術的表現と生活の記録を数千年にわたって伝える貴重な文化遺産です。この壁画群は、ユネスコ世界遺産として「ハーイル地方の岩面彫刻(ジャバル・ウム・シンマンとジャバル・アル=マンジョール)」の名で2015年に登録され、アラビア半島における先史時代の人々の精神世界や社会生活を今に伝える資料として高く評価されています。

壁画が見られる主な場所は、ジャバル・ウム・シンマンとジャバル・アル=マンジョールの二つの山で、これらはいずれも古代において定住や通過の地であったと考えられています。ここには新石器時代からイスラーム以前の時代に至るまで、さまざまな時代に彫られた膨大な数の彫刻や刻文が残されており、数千年に及ぶ人間の営みと信仰、自然観が一体となって描かれています。

岩面には、人間の姿や狩猟の場面、騎乗する人物、さらにはラクダや牛、ライオン、ガゼル、ダチョウといったアラビア半島の動物たちが生き生きと表現されています。特に狩猟に関する図像は多く、弓矢や槍を持った人物が獲物を追い詰める様子は、当時の人々の生活の中心に狩猟があったことを如実に物語っています。また、戦いや舞踊、儀式と見られる描写も見受けられ、これらは古代社会の信仰や権威、共同体の結束を示す重要な要素と考えられています。

注目すべきは、描写の精緻さと表現力です。単なる記号ではなく、動物の動きや人間の姿勢が躍動的に描かれており、当時の芸術的感性や観察眼の高さをうかがわせます。彫刻には、単線による輪郭表現のものもあれば、陰影や細部を丁寧に彫り込んだものもあり、技術的な進歩や時代ごとの表現の変化も読み取ることができます。

さらに、これらの壁画には古代文字やシンボルも刻まれており、アラビア語の祖形とされるタムディック文字や古代南アラビア文字などが確認されています。これは、ハーイル地域が文化的交流の要所であり、移動や交易のネットワークに組み込まれていた証でもあります。これらの文字資料は、当時の人々が言語と記録の手段を持ち、社会的な意思疎通や記憶の伝承を行っていたことを示しています。

ハーイル地方の壁画群は、単なる美術的遺産にとどまらず、人類の創造力と自然との関係、そして精神文化の発展を読み解く鍵となる存在です。厳しい自然環境の中で生き抜いた人々の足跡が、岩という永続性のある素材を通して現代にまで届いていることは、歴史の深さと人間の普遍的な営みに対する尊敬の念を抱かせます。サウジアラビアにおける文化遺産の象徴として、今後もその保存と研究が求められています。

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世界遺産ハントの管理人。

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