イラン縦貫鉄道

イラン縦貫鉄道
イラン・イスラム共和国
登録区分文化遺産
世界遺産登録年2021年
登録基準(ⅱ)(ⅳ)
その他の区分
公式テキストページ中巻182p
英文タイトルTrans-Iranian Railway

※テキストは世界遺産1500(2024年発行の最新版)になります。参照はこちら

イラン縦貫鉄道とは

困難を乗り越え1930年代に建設された鉄道

イラン縦貫鉄道は、イラン北部のカスピ海沿岸に位置するバンダレ・トルキャマン(旧称バンダレ・シャー)から、南部ペルシャ湾に面したフーゼスターン州のホラムシャフルまでを結ぶ、全長約1,400キロメートルにおよぶ鉄道路線です。2021年にユネスコの世界文化遺産に登録され、近代化の過程で築かれた技術的偉業と、国土を縦断する社会的・経済的ネットワークの発展を象徴する遺産として評価されています。

この鉄道は1927年に建設が始まり、1938年に全線が開通しました。当時のイランは、列強による植民地的な影響を強く受けていた時代であり、イラン政府は自国の独立性と近代化を推進するため、自力で国家的インフラを整備する方針をとっていました。その象徴の一つがこの縦貫鉄道であり、政治的自立と経済発展の両立を目指した国家プロジェクトでした。

この鉄道の最大の特徴は、その経路の複雑さと多様な自然地形を克服した点にあります。カスピ海沿岸の低地からザグロス山脈やアルボルズ山脈を越え、砂漠地帯や台地、川や峡谷を縫うようにして路線が引かれており、建設には高度な技術と地形への適応力が求められました。路線上にはトンネル174本、橋梁186本が設けられ、地質的に不安定な場所には斜面の補強や排水システムが施されるなど、当時としては最先端の工学的工夫が随所に凝らされています。

興味深いことに、この鉄道の建設にはイラン国外からの直接的な資金援助や植民地主義的な企業の関与はなく、技術面では多国籍の専門家たちによる協力のもとで、イラン政府の主導により進められました。ドイツ、スウェーデン、スイス、フランスなどからの技術者が参加しつつも、国家の統制のもとで中立的にプロジェクトが運営されたことは、当時の国際情勢下において極めて特異であり、イランの主権的姿勢を示す重要な実例となっています。

イラン縦貫鉄道は、単なる交通手段としての価値にとどまらず、地域間の経済交流、文化的接触、民族的統合の促進にも寄与しました。遠隔地の物資輸送が容易になったことで、農業生産物や鉱産資源の流通が活発化し、都市と農村の結びつきも強まりました。また、地方住民の移動や教育・医療へのアクセスの改善ももたらされ、国家全体の近代化の基盤として機能しました。

このように、イラン縦貫鉄道は、厳しい地形と政治的制約を乗り越えて実現された壮大な国家事業であり、技術史、政治史、社会経済史の観点からも非常に高い価値を持っています。そのため、この鉄道網は、単なるインフラを超えて、近代イランのアイデンティティと発展の象徴として、世界遺産にふさわしい文化遺産といえるのです。

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この記事を書いた人

世界遺産ハントの管理人。

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