世界遺産という言葉を聞くと、壮大な歴史的建造物や息をのむような美しい自然が思い浮かぶでしょう。
しかし、それらの価値を評価し、未来へと守り継ぐために、知られざる重要な役割を担っている組織があります。
それが「IUCN(国際自然保護連合)」です。
このページでは、世界遺産、特に自然遺産において欠かせない存在であるIUCNについて、その役割から具体的な活動、そしてなぜ私たちの世界遺産サイトにとってIUCNの情報が重要なのかを分かりやすく解説していきます。
世界遺産をより深く理解し、その魅力を余すことなく伝えるために、ぜひIUCNの存在に注目してください。
IUCNとは何か?その歴史と設立目的
IUCNは、1948年に設立された世界最大級の環境保護団体です。国家、政府機関、そして数多くのNGOなどが会員として参加しており、その本部はスイスのグランにあります。
設立の目的は、地球上の「自然の多様性を保全し、自然資源をS持続可能な形で利用すること」。
この壮大な目標を達成するために、世界中の科学者や専門家が協力し、研究、政策提言、そして具体的な保護活動に取り組んでいます。
ユネスコが世界遺産条約を締結し、人類共通の遺産を守るための国際的な枠組みを定めた際、IUCNは自然遺産に関する専門知識と経験を買われ、その諮問機関としての役割を担うことになりました。
これにより、IUCNは世界遺産、特に自然遺産の登録プロセスにおいて、非常に重要な「番人」としての役割を果たすことになります。
世界遺産におけるIUCNの役割:なぜ自然遺産にIUCNが不可欠なのか?
世界遺産には、人類が築き上げてきた歴史的建造物や文化的な景観を対象とする「文化遺産」と、地球が育んできた壮大な自然を対象とする「自然遺産」、そしてその両方の価値を兼ね備える「複合遺産」があります。
IUCNが専門とするのは、この中の「自然遺産」と、複合遺産における「自然の価値」の部分です。
では、具体的にどのような役割を担っているのでしょうか?
1. 自然遺産推薦地の「専門的評価」:登録への第一歩
各国が「ここを世界遺産に登録したい!」と推薦書を提出すると、その内容が適切であるかどうかの審査が始まります。
この際、自然遺産に関しては、世界遺産センターからの依頼を受け、IUCNがその評価を担当します。
IUCNの専門家たちは、推薦された場所の「顕著な普遍的価値(Outstanding Universal Value: OUV)」が、世界遺産としての基準に合致しているかを徹底的に調査します。
この調査は、机上の書類審査だけでなく、必ず現地に赴いて行われる「現地調査」が特徴です。
実際にその場所を訪れ、専門家がその自然の価値、生態系の健全性、保護管理体制などを詳細に確認するのです。
具体的に評価されるポイントは多岐にわたりますが、主に以下の4つの自然遺産登録基準(クライテリア)への適合性が問われます。
- (vii) ひときわ優れた自然美および審美的な重要性を持つ自然現象または景観
- (viii) 生命の記録、地球の進化における重要な段階を示す顕著な例、または地形形成における重要な地質学的プロセス、あるいは地形学的または自然地理学的な特徴
- (ix) 陸上、淡水、沿岸、海洋の生態系および動植物群集の進化と発展において進行中の重要な生態学的および生物学的プロセスを示す顕著な例
- (x) 学術上または保全上、極めて重要な、絶滅のおそれのある種を含む生物多様性の保全のための最も重要な自然の生息地
これらの基準に照らし合わせ、科学的かつ客観的な視点から厳格な評価が行われます。
2. 評価結果の「勧告」:世界遺産委員会の判断材料
現地調査と詳細な評価を終えたIUCNは、その結果を「勧告」として世界遺産委員会に提出します。この勧告は、以下の4段階のいずれかで行われます。
- 登録(Inscribe): 世界遺産としての価値があり、保護管理体制も整っているため、登録が適切であると判断される場合。
- 情報照会(Referral): 登録基準への適合性には一定の可能性があるが、追加情報や改善が必要な場合。情報の提供や計画の修正を求めた上で、次回の委員会で再審査されることが多いです。
- 登録延期(Deferral): 推薦内容に重大な課題があり、価値の証明が不十分であったり、保護管理体制に大きな問題がある場合。抜本的な見直しや改善が必要とされ、再推薦までに時間を要します。日本の「奄美大島、徳之島、沖縄島北部および西表島」が過去にこの勧告を受け、その後、エリアの見直しや追加情報の提供によって再推薦・登録に至った事例は、IUCNの評価の厳しさと重要性を示す好例と言えるでしょう。
- 不登録(Not Inscribe): 世界遺産としての価値が認められない、または根本的な問題があり、登録が不適切であると判断される場合。
この勧告は、世界遺産委員会が登録の可否を決定する際の最も重要な判断材料となります。
IUCNの専門的な意見は、世界遺産がその普遍的価値を本当に備えているのか、そして未来にわたって適切に保護・管理できるのかを見極める上で不可欠なのです。
3. 既存の世界遺産の「モニタリング」と「危機遺産」への提言
IUCNの役割は、新規登録だけにとどまりません。
登録された世界遺産が、その後もその価値を維持し、適切に保護されているかを継続的に監視する「モニタリング」も重要な活動の一つです。
気候変動、開発圧力、観光客の増加など、世界遺産を取り巻く環境は常に変化しています。
IUCNは、これらの脅威が遺産に与える影響を評価し、必要に応じて世界遺産委員会に改善策を提言します。
特に、その価値が深刻な危機に瀕していると判断された場合、IUCNは「危機遺産リスト」への登録を提言することがあります。
危機遺産に登録されることで、国際社会からの注目と支援が集まり、遺産保護のための追加的な措置が講じられるきっかけとなります。
IUCNと日本:密接な連携と貢献
日本もまた、IUCNの重要な会員国であり、政府機関である環境省が1978年に、国家としては1995年に加盟しています。
さらに、国内の多くのNGO団体もIUCNの活動に貢献しています。
これまでにも、「知床」や「小笠原諸島」、そして前述の「奄美大島、徳之島、沖縄島北部および西表島」といった日本の自然遺産の登録プロセスにおいて、IUCNは重要な役割を果たしてきました。
IUCNの専門家による現地調査や勧告は、日本の自然遺産が真に世界に誇るべき価値を持っていることを国際的に認めさせる上で不可欠なプロセスでした。
また、IUCNが発信する「レッドリスト」(絶滅のおそれのある野生生物のリスト)は、日本の生物多様性保全においても重要な指標となっています。
まとめ:IUCNは世界遺産を守る「見えないヒーロー」
IUCNは、世界遺産、特にかけがえのない自然遺産が未来へと確実に受け継がれていくために、その評価と監視において不可欠な役割を担っています。
彼らの専門的な知識と客観的な視点があってこそ、私たちは真に「顕著な普遍的価値」を持つ遺産を世界遺産として認識し、保護の取り組みを強化できるのです。
あなたの世界遺産サイトでIUCNの重要性を伝えることは、訪問者に世界遺産の奥深さを知ってもらうだけでなく、その保護への意識を高めることにも繋がります。
IUCNは、まさに世界遺産を守る「見えないヒーロー」なのです。

コメント