| 国 | アラブ首長国連邦 |
|---|---|
| 登録区分 | 文化遺産 |
| 世界遺産登録年 | 2011年 |
| 登録基準 | (ⅲ)(ⅳ)(ⅴ) |
| その他の区分 | |
| 公式テキストページ | 中巻32p |
| 英文タイトル | Cultural Sites of Al Ain (Hafit, Hili, Bidaa Bint Saud and Oases Areas) |
※テキストは世界遺産1500(2024年発行の最新版)になります。参照はこちら
アラブ首長国連邦(UAE)のアブダビ首長国東部に位置するアル・アインは、「オアシス都市」として知られる緑豊かな地域です。この地には、先史時代から現代に至るまでの豊かな歴史を物語る重要な遺跡群が点在しており、2011年にユネスコの世界遺産「アル・アインの文化的遺跡群(ハフィート、ヒリ、ビダ・ビント・サウードとオアシス群)」として登録されました。砂漠の過酷な環境の中で、古代の人々がどのように生活し、文明を築き上げてきたのか、その足跡を辿ります。
ハフィート山:古代の墳墓が眠る聖なる山

アル・アインの南端にそびえるハフィート山は、標高約1,240メートルの岩山です。この山の斜面や山頂にかけて、ハフィート期と呼ばれる青銅器時代初期(紀元前3200年~紀元前2600年)の数百もの石積みの墳墓が発見されています。これらの蜂の巣のような形をした円形の墳墓は、初期の定住生活を送っていた人々の埋葬習慣を示しており、この地域における初期の社会構造や信仰を理解する上で非常に重要な証拠となります。山頂からはアル・アインのオアシス群を一望でき、古代の人々もこの景色を眺めていたのかもしれません。
ヒリ遺跡群:青銅器時代の集落と壮麗な大墳墓

アル・アインの中心部からやや北に位置するヒリ地区には、青銅器時代中期(紀元前2500年~紀元前2000年)の集落跡や、特に印象的なヒリ大墳墓などの遺跡が点在しています。ヒリ大墳墓は、精巧な彫刻が施された入り口を持つ円形の石造りの建造物で、複数の埋葬室を備えています。この墳墓は、当時の社会における共同体意識や、死者に対する敬意を示すものと考えられています。周辺からは、メソポタミア文明との交易を示す土器なども出土しており、この地域が古代から広範な交流を持っていたことが示唆されます。
ビダ・ビント・サウード:重要な考古学的発見の地

アル・アインの北方に位置するビダ・ビント・サウードは、青銅器時代後期(紀元前2000年~紀元前1300年)の集落跡や墳墓群が発見された重要な考古学的サイトです。特に注目されるのは、この地から発見された灌漑システムの痕跡です。砂漠という厳しい環境の中で、古代の人々がどのようにして農業を営み、定住生活を維持していたのかを示す貴重な証拠となります。また、この地域からは、ハラッパー文明(インダス文明)との交易を示す遺物も出土しており、古代の広範囲な交易ネットワークの一端を物語っています。
アル・アインのオアシス群:砂漠の中の緑豊かな生命線

アル・アインの文化的景観を特徴づける最も重要な要素の一つが、アル・アイン・オアシス、ヒリ・オアシス、ジャベル・ハフィート・オアシスなど、点在する豊かなオアシス群です。これらのオアシスは、地下水脈を利用した伝統的な灌漑システムであるファラジ(アフラージ)によって維持されてきました。ファラジは、地下に掘られた水路を利用して水源から農地へと水を引く仕組みで、数千年前からこの地域で用いられてきた持続可能な灌漑技術です。現在もこれらのオアシスでは、ナツメヤシをはじめとする様々な作物が栽培されており、古代から続く人々の生活と知恵を今に伝えています。
世界遺産としての価値と保護の取り組み

アル・アインの文化的遺跡群がユネスコの世界遺産に登録されたのは、以下の点が評価されたためです。
・紀元前4千年紀から現在に至るまでの人類の居住と文化の連続性を示す重要な証拠であること。
・ハフィート期、ヒリ期、青銅器時代後期といった、この地域の独自の文化発展段階を示す遺跡群が存在すること。
・古代の灌漑システムであるファラジが、砂漠環境における持続可能な農業の実践を示す顕著な例であること。
・周辺地域との交易や文化交流を示す遺物が発見されており、古代の広範なネットワークを理解する上で重要であること。
現在、アル・アインの文化的遺跡群は、アブダビ文化観光庁を中心に保護・管理が行われています。遺跡の調査・発掘、修復、そして周辺環境の保全など、多岐にわたる取り組みが進められています。また、世界遺産としての価値を広く伝えるための教育活動や観光インフラの整備も行われています。
結びに

アル・アインの文化的遺跡群は、砂漠という厳しい自然環境の中で、古代の人々が築き上げてきた豊かな歴史と文化を 伝える貴重な遺産です。ハフィート山の 墳墓、ヒリの壮麗な大墳墓、ビダ・ビント・サウードの灌漑システム、そして緑豊かなオアシス群は、それぞれが異なる時代の物語を語り、この地が数千年にわたり人々の生活と文化の中心であったことを示しています。アル・アインを訪れることは、砂漠に刻まれた古代の記憶を辿り、人類の知恵と自然との共生のあり方を学ぶ、意義深い旅となるでしょう。

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