危機に瀕した人類の宝を守る:世界遺産「緊急的登録推薦」とは?

世界遺産は、その顕著な普遍的価値(Outstanding Universal Value: OUV)が認められ、全人類が共有すべき宝としてユネスコに登録された不動産を指します。通常、世界遺産への登録プロセスは数年を要する厳格な審査を経て行われますが、中には通常のプロセスでは間に合わない、まさに「緊急事態」に直面している物件も存在します。そうした状況下で適用されるのが、今回ご紹介する「緊急的登録推薦(Emergency Nomination)」制度です。

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緊急的登録推薦とは?

緊急的登録推薦とは、自然災害、武力紛争、あるいは突発的な開発など、予期せぬ事態によって世界遺産としての価値が危機に瀕している物件を、特例的に迅速に登録するための制度です。通常の登録プロセスでは、準備期間、専門機関による事前評価、そして世界遺産委員会の審議といった段階を踏むため、少なくとも数年を要します。しかし、価値が失われる瀬戸際にある物件に対しては、この時間的猶予が許されません。緊急的登録推薦は、まさに「時間との闘い」の中で、その価値を保全するための最後の砦となる制度なのです。

なぜ緊急的登録推薦が必要なのか?

この制度の最大の目的は、取り返しのつかない形で世界遺産としての価値が失われることを防ぎ、その保全を国際社会全体で支援することにあります。例えば、地震や津波、大規模な火災といった自然災害は、一瞬にして文化財や自然環境に甚大な被害をもたらす可能性があります。また、紛争地帯においては、意図的な破壊行為や略奪によって、人類の貴重な遺産が失われる危機に常にさらされています。こうした緊急事態に対して、迅速な世界遺産登録は、国際的な注目を集め、保全のための資金援助や技術支援を呼び込む上で極めて大きな意味を持ちます。

過去の事例から見る緊急的登録推薦

これまでに緊急的登録推薦が適用されたケースは多くありませんが、その都度、国際社会の関心を喚起し、危機に瀕した遺産の保全に貢献してきました。

バムヤン渓谷の文化的景観と古代遺跡群(アフガニスタン): 2003年に緊急登録されました。タリバンによる仏教石窟破壊という悲劇を経て、この地の文化的価値が危機に瀕している状況が認識され、迅速な登録が決定されました。これは、文化遺産が紛争によって破壊されることへの国際社会の強い懸念を示す事例となりました。

アッシュール(イラク): 2003年に緊急登録されました。イラク戦争による略奪や破壊の脅威にさらされたため、その歴史的価値を守るために緊急の措置が取られました。メソポタミア文明の重要な都市遺跡であり、その保全は世界の歴史にとって不可欠でした。

エル・ヴィズカイノのクジラ保護区(メキシコ): 1993年に緊急登録されました。開発計画によってクジラの生息地が脅かされる危機に直面し、その生態系を守るために緊急登録が認められました。これは、自然遺産に対する緊急的登録の初期の重要な事例です。

コトルの自然と文化の歴史地区(モンテネグロ): 1979年に緊急登録されました。1979年の大地震によって甚大な被害を受け、その復旧と保全のために国際的な支援が必要とされたため、迅速な登録がなされました。これは、自然災害による被害からの復旧支援を目的とした事例として知られています。

これらの例からもわかるように、緊急的登録推薦は、単にリストに載せるだけでなく、国際社会が連携して、危機に瀕した遺産を守るための具体的な行動を促す強力なツールとなり得るのです。

私たちにできること

世界遺産は、地球の歴史や人類の営みを物語る貴重な「生きた証」です。緊急的登録推薦は、危機に瀕した遺産を守るための重要な制度ですが、私たち一人ひとりがその存在を知り、関心を持つことが、最終的には遺産を守る力となります。ニュースなどで報じられる危機的状況にある遺産に目を向け、その保全活動を支援することは、未来世代へとこの宝を引き継ぐための大切な一歩となるでしょう。

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名称や概要がまだぼんやりしている方はショート動画、さらに詳しく理解を深めたい方は横動画を活用していただけると幸いです。

まだまだ本数が少ないですが、頑張って随時更新しております!

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この記事を書いた人

世界遺産ハントの管理人。

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