世界遺産の登録を目指す場所は、その価値を世界に認められ、未来永劫にわたって保護されるという名誉と責任を背負うことになります。しかし、その道のりは決して平坦ではありません。多くの国が登録を目指し、熾烈な競争を繰り広げる中で、近年特に注目されているのが「アップストリームプロセス」という考え方です。これは、登録に向けた取り組みをより効率的かつ効果的に進めるための、言わば「上流工程での事前支援」を指します。
アップストリームプロセスとは何か?
世界遺産の登録プロセスは、まず各国が自国の「暫定リスト」に候補地を記載するところから始まります。その後、詳細な「推薦書」を作成し、ユネスコの世界遺産センターに提出します。提出された推薦書は、文化遺産であればICOMOS(国際記念物遺跡会議)、自然遺産であればIUCN(国際自然保護連合)という諮問機関によって厳正に審査され、現地調査なども行われます。最終的に、諮問機関の勧告を参考に、世界遺産委員会が登録の可否を決定するという流れです。
この一連のプロセスの中で、アップストリームプロセスは、暫定リストの作成や推薦書の準備といった初期段階から、世界遺産センターや諮問機関が当該国に対して積極的に助言や支援を行うことを指します。具体的には、以下の点が挙げられます。
1.価値の早期発見と評価
候補地が本当に「顕著な普遍的価値(OUV: Outstanding Universal Value)」を有しているのか、その潜在性を早い段階で共同で検討します。これにより、後に登録基準を満たさないことが判明するといった無駄を省くことができます。
2.比較研究の強化
類似の価値を持つ他の世界遺産と比較検討し、候補地のユニークな価値を明確にするための支援が行われます。これにより、推薦書の説得力が高まります。
3.保全計画の策定支援
登録後の適切な保全管理計画を策定するためのアドバイスが提供されます。世界遺産は登録されるだけでなく、その価値を維持し続けることが求められるため、これは非常に重要な要素です。
4.関係者との対話促進
推薦国、世界遺産センター、諮問機関の間で、初期段階から密接なコミュニケーションを図ることで、認識のずれを解消し、スムーズなプロセスを促進します。
なぜアップストリームプロセスが重要なのか?
このアプローチが導入された背景には、いくつかの課題がありました。
推薦書作成の複雑化と負担増: 世界遺産への登録基準は年々厳格化しており、推薦書の作成には膨大な時間と労力、専門知識が必要です。特に開発途上国にとっては大きな負担となっていました。
「非推薦」や「情報照会」の増加: 推薦書が提出されたものの、諮問機関による評価で「登録延期」や「不登録」となるケースが少なくありませんでした。これは、推薦国と諮問機関の間での価値認識の齟齬や、推薦書の不備などが原因となることがありました。
登録後の保全問題: 登録はされたものの、その後の適切な保全管理がなされず、価値が損なわれるケースも散見されました。
アップストリームプロセスは、これらの課題を解決し、世界遺産の登録プロセス全体をより効率的、効果的、そして持続可能なものにすることを目的としています。初期段階から専門的なアドバイスを受けることで、推薦の成功率を高めるとともに、将来的な保全の基盤を強化することが期待されています。
これにより、世界遺産制度の信頼性が向上し、真に価値のある遺産が適切に保護されるようになるでしょう。訪問者にとっても、アップストリームプロセスを経て登録された世界遺産は、その価値が多角的に検証され、将来にわたって守られていくことが約束された、より確かな場所として認識されるに違いありません。
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