| 国 | トルコ共和国 |
|---|---|
| 登録区分 | 文化遺産 |
| 世界遺産登録年 | 2015年 |
| 登録基準 | (ⅲ)(ⅳ)(ⅵ) |
| その他の区分 | |
| 公式テキストページ | 中巻45p |
| 英文タイトル | Ephesus |
※テキストは世界遺産1500(2024年発行の最新版)になります。参照はこちら
エフェソスとは
イオニア人が開拓したエーゲ海沿岸の都市遺跡
エフェソスは、現在のトルコ西部・エーゲ海沿岸に位置する古代都市の遺跡であり、古代ギリシアからローマ帝国時代にかけて栄えたアジア州の主要都市の一つである。その歴史は紀元前10世紀頃にまで遡るとされ、アルテミス神殿を中心に発展したエフェソスは、宗教・商業・政治の重要な拠点として長きにわたり栄華を極めた。とりわけ、紀元前6世紀から紀元後3世紀にかけての都市構造と建築群は、古代都市計画と都市生活の実態を今に伝えており、2015年にユネスコの世界文化遺産に登録された。
この都市の中心的存在であったアルテミス神殿は、古代世界の七不思議の一つに数えられる壮麗な建造物であり、ギリシア神話の女神アルテミスを祀る神殿として広く崇敬を集めた。紀元前356年の火災後に再建された神殿は、石柱や彫刻の装飾において高度な技術を示しており、当時の宗教的権威と建築技術の粋が集約されていたことを物語る。神殿跡地には現在も礎石や柱基部が残されており、その規模の大きさと荘厳さを偲ばせる。
ローマ時代にはエフェソスはアジア属州の首府として発展し、港湾都市として東西交易の要衝を担った。その繁栄を象徴するのが、都市の中心部にある大理石の道路や列柱通りであり、市民生活や商業活動の舞台となった。特に、ケルスス図書館は学術と文化の中心であり、当時世界で3番目に大きな蔵書量を誇ったとされる。また、大劇場は2万5千人以上を収容可能で、演劇や政治集会、剣闘など様々な催しが行われていた。この劇場はパウロによるキリスト教の布教活動とも関わりがあり、新旧の宗教が交錯する象徴的な場でもある。
キリスト教との関係においても、エフェソスは極めて重要な位置を占める。新約聖書の「エフェソの信徒への手紙」はこの地の教会に宛てられたものであり、ヨハネによって聖母マリアがこの地に移り住んだとされる伝承が残る。また、431年のエフェソス公会議はキリスト教史における重要な教義決定の場であり、マリアの神の母性が正式に認められる契機となった。
都市の衰退は、港の堆積による水運の停滞と度重なる地震、そしてアラブ軍の侵攻などにより7世紀以降に進行し、次第に人々はこの地を離れ、都市は放棄された。現在の遺跡群には、劇場、浴場、アゴラ、神殿、住居、街道など、古代都市の諸機能がほぼ完全な形で残されており、考古学的にも極めて高い価値を有している。
エフェソスは、古代ギリシアとローマ文化、そして初期キリスト教の重層的な歴史を今に伝える稀有な遺産であり、地中海世界における都市文明の発展とその変遷を理解するうえで不可欠な存在である。宗教、文化、建築、都市生活が融合したエフェソスは、過去の文明が築いた豊かな知と美の記録として、現在も訪れる者に深い感銘を与え続けている。

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