| 国 | カンボジア王国 |
|---|---|
| 登録区分 | 文化遺産 |
| 世界遺産登録年 | 2017年 |
| 登録基準 | (ⅱ)(ⅲ)(ⅵ) |
| その他の区分 | |
| 公式テキストページ | 中巻40p |
| 英文タイトル | Temple Zone of Sambor Prei Kuk, Archaeological Site of Ancient Ishanapura |
※テキストは世界遺産1500(2024年発行の最新版)になります。参照はこちら
サンボー・プレイ・クックの寺院地区:古代イシャナプラの考古遺跡とは
密林に残るアンコール朝以前の寺院建築群
サンボー・プレイ・クックの寺院地区は、カンボジア中部、コンポン・トム州に位置する古代都市イシャナプラの中心部にあたり、7世紀前半に繁栄したクメール以前の王朝、シュレシュトヴァルマンによって築かれた真臘(チェンラ)王国の首都の遺構です。この地は、クメール建築様式の源流を成す極めて重要な文化的景観であり、2017年にユネスコの世界文化遺産として登録されました。
遺跡群は総面積400ヘクタールにわたり、百を超える祠堂(プラサート)を含む3つの主要寺院地区――プラサート・サンボー、プラサート・ヤエイ・ポウン、プラサート・トゥオル・トゥープ――から構成されます。これらの寺院はレンガ造りが主で、表面には漆喰や彫刻装飾が施されており、その多くが保存状態良好で、東南アジア初期の煉瓦建築技術の到達点を示しています。中でも八角形の塔堂は、東南アジア建築においてきわめて稀少な形式であり、この地における独自の様式を物語っています。
サンボー・プレイ・クックの寺院群は、ヒンドゥー教の宇宙観に基づき建設されました。神殿の中心にはシヴァ神を祀るリンガが安置され、東向きに設計された配置や、周囲の付属建築物が聖域としての性格を強調しています。さらに、入口の守護神である神獣マカラや空想的な動物、花や蔓を模した浮彫装飾は、チェンラ時代の豊かな信仰世界と造形美を伝えるものです。
この都市はまた、宗教だけでなく政治と文化の中心でもありました。石碑に記された碑文からは、サンスクリット語と古クメール語が併用されていたことが確認され、南インドの文化や宗教の影響を受けながらも、地域独自の文脈で融合・発展していたことが分かります。このような文化的重層性は、のちのアンコール文明にも継承され、東南アジアの歴史的展開を考察する上で欠かせない要素となっています。
また、この遺跡群の価値は、建築や宗教面にとどまりません。森林と共存するように配置された寺院群は、自然と人間の営みが調和する文化的景観としての性格も有しており、信仰と環境との関係性を今日に伝える貴重な証拠でもあります。
近年では保全・修復事業が進められ、学術的調査や観光資源としての整備も行われていますが、現地の住民たちの信仰心も今なお根強く、寺院はいまなお生きた聖地として機能しています。サンボー・プレイ・クックは、古代東南アジアにおける都市形成、宗教建築、芸術文化の原点を示す希少な遺産として、人類の文明史において重要な位置を占めています。

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