| 国 | 中華人民共和国 |
|---|---|
| 登録区分 | 文化遺産 |
| 世界遺産登録年 | 2006年 |
| 登録基準 | (ⅱ)(ⅲ)(ⅳ)(ⅵ) |
| その他の区分 | |
| 公式テキストページ | 中巻37p |
| 英文タイトル | Yin Xu |
※テキストは世界遺産1500(2024年発行の最新版)になります。参照はこちら
殷墟とは
青銅器時代の繁栄を伝える中国最古の都市遺跡
中国河南省安陽市に位置する殷墟は、紀元前14世紀から同11世紀にかけて存在した殷王朝(商王朝後期)の都城遺跡であり、中国文明初期の姿を今に伝える極めて重要な考古学的遺産です。殷墟は20世紀初頭に発見され、その後の大規模な発掘調査により、王宮、王陵、宗教施設、住居、工房などが体系的に確認されました。2006年にはユネスコの世界文化遺産に登録され、中国古代文明の実証的基盤として国際的にも高く評価されています。
殷墟が最初に注目されたのは、甲骨文の出土によるものでした。これらの甲骨文は、占いの記録や王の行動、軍事・農耕・天文・医療などに関する情報を記したもので、中国最古の成文文字体系として極めて重要です。発掘された甲骨文の数は十万点を超え、それにより殷王朝の統治機構や宗教儀礼、社会構造が明らかになりました。これらの記録は、中国古代の史書『史記』に記された殷の歴史と照合できる点も多く、伝説の域にあった古代王朝の実在を裏付ける決定的な証拠となっています。
殷墟の中心には、王族の宮殿や祭祀に使用された広大な建築遺構があり、巨大な土台、柱穴、倉庫跡などが確認されています。これらの構造物は木造建築を主体としたもので、中国古代建築の初期形態を知る手がかりとなっています。また、王族や貴族の墓からは、副葬品として大量の青銅器、玉器、陶器、骨器、象牙細工などが出土し、当時の高度な工芸技術と豊かな精神文化を物語っています。特に青銅器は、精緻な装飾と鋳造技術の高さで知られ、祭祀において重要な役割を担っていたことがうかがえます。
最も有名な墓の一つが、王妃・婦好(ふこう)の墓です。この墓からは約2000点に及ぶ副葬品が出土し、その中には大型の青銅器、玉器、兵器、銘文入りの器具などが含まれています。婦好は王に仕えた祭司でありながら将軍として軍を率いた記録も甲骨文に残されており、殷代における女性の地位や役割の一端を示す貴重な資料でもあります。
殷墟の都市構造は、政治、宗教、軍事が統合された中枢機能を備えており、周囲には職人の工房群、農耕地、集落が広がっていました。このような都市計画の存在は、中国古代における初期国家の形成と運営の実態を示すとともに、後の中国文明の基盤がすでにこの時期に整備されていたことを明示しています。
殷墟は、考古学、文字学、歴史学、宗教学、技術史など多方面にわたる研究の宝庫であり、今日の中国文化と社会の深層にある起源を探る上でも不可欠な遺産です。その壮大な遺構と豊富な出土品は、約3000年前の人々の暮らしや思想を今に伝え、人類史における文明発展の重要な一頁を刻んでいます。

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